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投稿者::黒猫の手袋: 日時: 2008年06月13日

別にこのDVDを借りに行ったわけではなかった。
武士の一分を借りに行っただけだった。

ではなぜ、このDVDの背表紙が目にとまったときに借りようと思ったのか?
それは、
    白い飛行機が白い塔に向かって飛ぶところを見たかったから
それだけである。
前にYouTubeでこのアニメのプロモーションフィルムを見て以来、「白い飛行機で白い塔へ」が頭のどこかに引っかかっていたのだろう。

「自分たちで作った白い飛行機で白い塔へ」
これだけで、少年の脳内にアドレナリンが噴出するには十分である。
どこか遠くへ行きたい!という欲望、いや衝動は男ならば誰でも持っているものであろう。
徒歩、自転車、バイク、飛行機...
新しい乗り物を手に入れるたびに世の野郎どもの行動範囲は広がり、欲望もどんどん大きくなる...

そんなロマンを描いたアニメに違いない!

しかも!?日本が南北分断されている!?
つまり「白い塔へ行く」ということは、「行ってはいけないところへ行く」ということだ。
自らの存在を拒絶するところへ、敢えて行く
これで脳内物質は300%増量である。そうでなければ、ヒマラヤ登山なんか誰がするというのだ。
つまりこれはそういう野郎どもの挑戦のアニメに違いない。
女の子が出てくるが、これはほんの味付けであろう。

そう思っていた私は、
    見事に裏切られた。
(ヴェラシーラが明らかに飛べそうなフォルムではない、とかいうそのようなことではない)

ヒロキは、私が期待していた、豪快な開拓者ではなかった。
タクヤは、私が思っていたような、野望に燃えるチャレンジャーではなかった。
サワタリは、主人公を支える強い女性ではなかった。

このアニメには、自分の力でぐいぐいと突き進んでいくヒーロー・ヒロインがいない!
見終わった後の爽快感はゼロだった。

悪いのは私である。
先入観を持ちすぎたのである。メカ好きがたたった結果といえる。
これいつか見よう、と思ってから実際に見るまでが長すぎたのも悪かった。

...

しかし、ここで1つだけ主張したいのは、サワタリが関わってくる前、
ヴェラシーラの作成を始めたそもそもの動機は、
やはり男の中にどうしようもなく渦巻く
「自分が到達していないところへ行きたい」「できないと言われるとよけいに行きたい」
という思いだっただろう、ということである。
こういうどうしようもない思いを心にくすぶらせているバカ2人が出会ったことは、お互いの人生にとって奇跡のような幸運である。
そのような相手に出会えないばかりに、乾いた毎日を送っている者のなんと多いことか!

しかし、サワタリの失踪とともに2人は飛行機制作をやめてしまう。
私は「何でだよ!」と思ってしまった。
2人で始めたんだから2人で続ければいいだろう!

しかし、やめてしまった気持ちも痛いほどわかるのである。
いつのまにか、飛行機を作る理由がサワタリになっていた。
そういうことは私たちの人生の中で往々にしてあるものだ。

とにかく2人はやめてしまった。
それは同時に、この男同士の友情が変質してしまったことを意味する。
お互いがお互いに、飛行機作りに対して「不純な動機」で向かっていたことを確認してしまうのである。
このままでは、2人は敗北の人生を送ることになっただろう。
名誉とか財産とかいうことではなくて、男として。
自分が自分を誇れるために。

簡単に言えば、飛行機は飛ばされなければいけなかったのである。
空中分解したとしても、滑空5mで鳥人間コンテストのように墜ちたとしても、
もっと言えば、滑走路ないで上昇できなくてどっかに突っ込んで終わったとしても。
男2人が夢に向かって走り出したのだから、最後まで走り切らなくてはいけないのである。
その結果がどうあろうと。


2人は、サワタリをきっかけとして再び飛行機に向き合い、飛行機を飛ばす。
ここで男たちの夢は1つの結論を見る。
青春のときの夢は思い出という形に昇華し、ずるずると現実の中で引きずる事態は避けられたのである。
ヒロキがうじうじと過去を引きずりながら新しい未来を切り開くこともできないような軟弱ポテト野郎になることや、
タクヤが過去を封じ込めて、そこからくる心の痛みから逃げ続けるような卑怯なモーレツ仕事人間なることも避けられた。
2人は自分の力でこれからを突き進んでいくだろう。

そして、2人の野郎が男としてしっかりと立つ、そのきっかけを与えたサワタリも立派なヒロインなのである(本人はほとんど寝たまんまであったが)

そう、このアニメはヒーロー以前のお子様が、大人の男になるための叙事詩だったのである。
私たち全員が、今の自分を形作るそれぞれの叙事詩を持っているように。

私は、叙事詩が完結した大人ばかりが出てくるストーリーを期待したために、見事に肩すかしをくらったという訳だったのだ。
(長文読んでいただきありがとうございます)


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